6.再会《Episode-5》
遊星は黙ったままDホイールに近づいた。エラーの出ているDホイールはセンサー音すらしなくなってしまっていた。
手動でデュエルディスクを外す。ディスク本体には以上はないものの、遊星は黙ったまま腕に装着しようとしない。
腕を組んだまま、ライバルの行動を暫く見ていたジャックは、眉間に皺を寄せ、声を荒げた。
「どうした遊星、怖気づいたのか?!」
しかしそれを気にしないで、彼は黙ったまま空を見上げる。瓦礫の穴から見える夜空・・・。スターダストの瞳のような金色の光を帯びた月が、見つめるようにこちらを見ている。
あの時の声が、頭から離れない−
「戦いたくない」
空を見上げたまま、呟くように答えた。
「・・・何だ・・・と?」
「この場所では、戦いたくないんだ」
「ふざけるな!!」
ジャックの怒りで静かだった周り空気が揺れた。それでもこちらを振り向かず、空を見上げている遊星の肩を引き、胸倉を掴んだ。
「このオレが、貴様に再度決闘を申し込んでいるのだぞ?!」
ジャックは自分の顔を遊星に近づけた。無表情で、水晶のような済んだ蒼い瞳は冷静に、怒りに燃えているキングの紫色の瞳を捕らえた。
ドカッ!
ヒビの入った壁に遊星を叩き付けた。遊星は軽く咳き込みながらも、地面に落ちたデュエルディスクを拾い上げる。チッ!っとジャックは舌打ちをする。
−あの時・・・「赤い竜」が姿を現さなかったら・・・間違いなくオレは負けていた。
ジャックは拳を握り締め、遊星を睨みつけた。ライバルは黙ったままDホイールにデュエルディスクを取り付け、先ほど拾ってきた部品で応急処置をしていた。
[キングはオレだ、キングであるオレが負けるだなんて・・・!!]
数日後に迫ってきた闘い・・・、だがこんな気分で試合に出る事は出来ない。だからここで貴様と勝負を・・・!
ドゥルルル・・・!
低い音が耳に届いた。同時にそれは遊星のDホイールの応急処置が完了した事を物語っている。画面にはDホイールの映像と、燃料の残量、そして速度の限度等が表示されていた。座席に置いてあったヘルメットを取ると黙ったままそれを被ろうとした。
それに気付いたジャックは遊星を止めようと叫んだ、
「待て、遊せ・・・」
「うわああっ!!」
ガシャアアッ!!
遊星が落下したジャンク品の山の上に何かが落ちてきた。二人が音のした方を向くと、小さな塊がモゾモゾと動き、ジャンク品を地面に落とす。
「痛ってぇ〜、何で穴が開いてるんだよ?」
「龍亞?」
キョトンとした顔で遊星は声の主の方を見た。お尻を摩りながら起き上がろうともがいているポニーテールの少年は、「遊星!」と叫んでジャンク品の山から滑るように降りた。
「良かった!無事だったんだ!」
「どうしてここに?」
「遊星を探しに来たんだよ!」
ガッツポーズを取りながら今までの経緯を話すと、直ぐ上の方から氷室の声がした。
「龍亞、大丈夫か?」
「おーい皆、遊星見つけたぜ!」と龍亞が天井の穴に向かって手を振った。上には友の姿がうっすらと見える。「大丈夫だ」と、遊星の冷静ないつもの声が部屋に響いた。
「ジャック、オレはここでは戦わない、お前との戦いはフォーチュンカップで決着をつける」
ジャックは整っている白い顔の眉間に皺を寄せ、その様子を見ていた。「うわぁ、本物だ」と驚いている龍亞を横目に、彼も自分のDホイールに乗ろうとした。
「兄ちゃん、Dホイールはどうする?その部屋から出られる場所はあるかい?」
しわがれた声を必死で絞りだしながら、柳が叫んだ。
「ここらの場所は地図で見たことがある、オレに着いて来い」
「探してみる」と、そう言い掛けた遊星の言葉をジャックが遮った。少し驚いた表情でジャックを見ると、彼は「フン」と鼻をならすと白いヘルメットを被った。それを見た遊星は、目を輝かせながらキングを見ている龍亞の頭に自分のヘルメットを被せた。
「龍亞、オレのDホイールに乗るんだ」
驚きと、歓喜の目が遊星を捕らえた。
「え、本当に!?オレずっと前からDホイールに乗ってみたかったんだ!」
飛び跳ねて喜ぶ龍亞は、天井の穴に向かって叫んだ。
「おーい龍可、オレ遊星のDホイールの乗せて貰えるぜ!」
良いだろう!と自慢げに話す兄に対し、妹は額に手をのせてため息をついた。
「ったく、龍亞ったら・・・自分の立場が解ってるのかしら」
「まぁ良いじゃないか龍可ちゃん、兄ちゃんも無事見つかったんだからさ」
金歯を見せながら笑う柳は、彼女の肩に手を置き言った。しかし隣にいる氷室は厳しい顔をしている。
「しかし、レクス・ゴドウィンは一体何処に行ったんだ?こんな立入禁止の場所なんかに入ってきた奴を放っておくなんて・・・」
車に乗り込み、何処かへ行ってしまった銀髪の男を思い出す。側にいた小さい男と話していたあの言葉・・・。
―もちろん、ここの事は、まだ住民達には知られては困ります・・・―
直ぐ後ろから何かが近づいてくる音がする。ハッと後ろを振り向くとライトの光がこちらを照らす。目が眩み、3人は思わず目を閉じ腕で光を遮ろうとした、刹那、頭上を轟音が轟き、穴の中へと消えていった。
その音は穴の中にいた遊星達にも聞こえた。
轟音とジャンク品のこすれる音が響く中、目の前のジャンク品の上にセキュリティのDホイールが低い音を立てながら月の光に照らされていた。
「・・・ここにいたか、サテライトの男」
低い声でカノンが言う。驚いて怯えた龍亜を背中に隠し、遊星は彼女を睨みつけた。