4.[声]《Episode-3》
真っ暗闇だった。浮いているのか沈んでいるのか解らない。
あの時見た、夢と同じだ。
―良い子
あんたは・・・誰だ?
頭を撫でる感覚。感じたことのない気持ち。うっすらと目を開ける。
黒い長い髪、優しく、悲しい目をした女性。そして腕にある赤い痣。
―私の・・・子・・・
オオオオオ・・・。
「ドラゴン・・・?」
全身に走る痛みに遊星は現実に戻された。目を覚ますと道路の穴が空に見える。その穴から月がこちらを見つめている。暫くそれを見つめていると、獣のような目をした月は、雲の中へその身を隠した。
「そうか・・・オレは」
落ちたんだ、そう思って遊星は上半身を起こす。と、右腕に何か違和感を覚えた。
肘までの手袋を取ると、獣のような顔をした、赤い光を帯びた痣が腕に浮かび上がっていた。
あの夢に出てきた人物は・・・オレと同じ痣を持っていた・・・。
山積みになったジャンク品がガチャと音を立てて下に落ちる。辺りを見渡す。何処かの部屋だったのものらしい。サビたり、ガラスが割れた棚が幾つか立っていた。
異様に大きい部屋だ、何かの実験に使われていたのか、ジャンク品の中には薬品等、実験に使われていたものが、落ちている。
ドアの近くにDホイールが横転していた。立ち上がりDホイールの側に近づく。これといった破損部分はない。危険音は消えたが、画面には未だに赤く点滅している。
落下した時、受身になったのが幸いしたのか、これといった怪我はしていなかった。
遊星は黙ったまま空を見上げた。道路の穴まで4メートルくらい。
ジャンク品の中には、メスやビンの破片といった危険なものまである、どうして自分がこれだけ無事とは。
ガシャ
ジャンク品の後で何かが動く気配がする。何かいる。
ヘルメットを取り近づくと、唸り声は気配を察知したように、その声を止めた。
暗闇の中で金色の目玉がこちらをジッと見つめている。
月が雲から姿を現し、穴から遊星を照らす。
いつもなら表情を崩す事は全くない彼が、この時ばかりは驚いたのは仕方が無かった。
白と青の星屑のような光を放つドラゴン−。
「スターダスト・・・」
遊星の声に反応した彼は、長い頭を持ち上げ、遊星を見据えた。
巨大な翼は器用に小さく折りたたみ、犬が伏せているような風に身体を小さくしていた。
「怪我をしているのか?」
白い体には何かがぶつかったような後と、引っかいたような小さな怪我からは、緑色の体液が涙ほどの大きさで流れている。
「オレを・・・助けたのか?」
金色の目がその声に反応して細まる。手を伸ばし、頭部から突き出た白い角を撫でてやると、ドラゴンは猫のように静かに喉を鳴らす。
ソリットヴィジョンではない・・・のか?ザラザラした角の感触に浸っていると、ドラゴンは両手足と翼を使ってゆっくりと起き上がる。部屋で身体に乗った破片やジャンク品が音を立てて落ちる。
オオオオ・・・
白い喉をそらし、ドラゴンは月明かりを浴びながら天に向かって吠えた。
「ちょっと・・・やばいんじゃないかねぇ?」
柳は氷室の大きな背中の後ろに隠れながら言う。
「だが、龍可ちゃんが言うには、あそこに遊星がいるんだろう?」
廃ビルの陰に隠れながら、氷室は隣にいる龍亜に言う。龍亞は怯えるように後ろに隠れている妹に視線をやる。
「うん・・・間違いない」
兄の後ろに隠れるように様子を伺っている龍可。視線の先にあるのは立ち入り禁止区域の場所。辺りをセキュリティの人間達が行方不明になった遊星を探してた。
「何してくれんだ!?」牛尾が、先ほどの女性警官に食って掛かっている。
「だから邪魔するなと言ったんだ!あいつはオレじゃないと倒せないんだってよ!」
「だが、私はここまであいつを追い込んだが?」
唸りながら彼女の言葉を聞いて、牛尾は舌打ちをすると、そのままパトカーの方へと行ってしまった。
「カノンさん、間違いなくサテライトの男で宜しかったんでしょうね?」
女性警官、カノンは帽子を取ると、ウェーブのかかった肩までの髪を掻き揚げ、後ろに立っていたレクスを見た。
「ええ、間違いありません。この映像の男です」
カノンは目を細めてレクスを見た。再び彼から離れると白いバイクに跨る。
「どこへ?」
「あの男・・・不動遊星を捕まえに行くだけです、あの男を逃がしたのは私の責任、落とし前はキッチリつけます」
耳を塞ぐような音を立てて、カノンはその場から去って行った。
目の前を突如、騒音を立ててバイクが走り抜けた為、氷室達はその音にたまらず耳を塞いだ。
「ひぇ〜っ!頭がくらくらする」
龍亜が歯を食いしばりながら叫んだ。と、同時にカノンが去って行った方向から白いDホイールが姿を見せた。
「あれは・・・」
氷室が思わず声を上げた。ビルの陰からその様子を見る。
「あ、あれキングじゃん!」
嬉しそうに声を上げた龍亜を氷室は思わず口を塞いだ。セキュリティの人間の中に、一際目立つDホイールが到着し、白いコートに身を包んだ長身の男が、レクスの前に立つ。
「遊星はどこだ?」
「あの男なら、廃墟のどこかにいますよ」
レクスは視線を廃墟となったビル群にやった。サテライトは水平線に向かうにつれ、段々と闇を増してきた。月は暗雲に隠れ姿を消してた。唯一の光はセキュリティ関係者達の車などの光だけだ。
ジャックは黙ってDホイールに乗り込む。
「キング、残念ですが、貴方をそこへ行かせる訳には参りませんよ」
「先ほど、来いと誘ったのは貴様だろう?」
それを止めようとしたレクスと側にいたイェーガーの間を割るように、Dホイールを走らせた。
「うわっ!!?」
牛尾がいた車の上を、白いDホイールが飛び越えた。セキュリティの静止を振り切り、ジャックは廃墟の中へと姿を消した。
「長官、どうなさいますか?」
「もちろん、ここの事は、まだ住民達には知られては困ります・・・入り込んだのがこの場所だと解った以上、それがキングであろうと、今は知られては・・・」
レクスは言いながらイェーガーに視線を送った。それに気付いたイェーガーは、軽く頭を下げると、彼がの乗って来た車へと向かった。