「うお〜、やっぱりカッコイイぜ!!」

いくらか日が高くなった時間。同じ髪の色で同じ顔の11歳くらいの双子と、方までの茶色の髪の毛の少年が、廃墟ビルに囲まれた空き地で赤いバイクを眺めていた。

その内の双子の一つで結んだ少年、龍亞は、「スゲー、カッコイイ!」等、何度も同じ事を言い、目を潤ませながら、赤いバイク「Dホイール」を前後左右から見ていた。

その二人の後ろで、自分達より背の高い大人が3人。空き地を囲んでいる柵に凭れていた。

「後もう数年経たないと、Dホイールには乗れないな」

「氷室ちゃん。龍亞くんが兄ちゃんくらいになったら、どんな姿になっとるか楽しみだね」

傷のある男、氷室を見ながら、もう一人は小柄な老人、柳は、ニコニコしながら二人を見ていた。

「オレ、絶対に遊星見たいになるんだ!」

目を輝やかせながら、空き地の端で氷室達と座っていた遊星に目をやる。それを見ていた遊星も優しく笑う。

「遊星見たくなるには、あと100年必要ね」

龍可が遠くから聞こえるか聞こえないかの声で言う。それを聞いてハハハ、と氷室と柳が大きな声で笑った。それを見ながら龍可も一緒に笑いながら、首に掛かっているペンダントを指で撫でていた。

「おや龍可ちゃん、そりゃあ何じゃ?」

氷室の隣に立っていた柳が身を乗り出して龍可に問う。「ん?」と反応した龍可に遠くで聞いていた龍亞が相変わらずDホイールをあちこち眺めながら彼女の変わりに言う。

「ああ、この前久々に父さん達が帰ってきたんだよ、その時のお土産」

指をさした龍可の首に、羽根の先が鮮やかな紅色をした鳥の羽が、赤い服に似合う薄いピンクの色の紐が首から掛かっていた。

「仕事先で買ってきたんだって、お守りって言ってたわ」

「良かったな龍可ちゃん、久々にお父さんやお母さんと会えて」

「そうでもないわ」龍可はツンとした顔で氷室を見た。

「だって、本当に私たちの事思っているなら、一日でも多く一緒にいようって思うはずじゃない?なのに龍亞が「暫く一緒にいたい」って言ったのに「仕事があるから」って直ぐに行っちゃったのよ」

少し不服そうな顔の龍可だが、お土産のペンダントの紐を摘んで持ち上げると、「でも可愛いでしょ?」と遊星に見せた。「良かったじゃないか」と言って優しく笑い、龍可の頭を撫でてやると、顔を赤くして撫でられた場所に手をやった。

「あ、龍可のやつ、顔赤くなっちゃって!」

「うるさいな!」

遠くから龍亞が龍可をからかう。あはは、と氷室と柳が笑う。龍可は上目遣いで遊星を見る。不思議そうな顔をして龍可を見る遊星だが、ぷぅっと頬を膨らませて龍亞に叫んだ。

「龍亜、Dホイールの側で暴れないで!壊れたらどうするのよ」と腕を組みながら兄を注意していた。

「何だよ、オレがそんなことするかよ!」

「でも龍亞は結構メチャクチャな事をしたりするからなぁ・・・」

「おいっ!」

どういう事だよ、と天平の肩を掴んで軽い取っ組み合いになってしまった。しかし等の遊星はそれに興味を持っていないような顔をしたまま、灰色の廃ビルに凭れて腕を組んで下を向いていた。

「母親・・・か」

この年になって親の事を思い出すとは、と、そう考えているとあの時の夢を思い出した。

もし、仮にあの声の主がオレの母親だとしても、オレは親の顔なんて知らない。第一、今まで仲間達と一緒に暮らしてきたのだから、親が生きていたとしても、これといった感情は何も沸いてこない。



ちょうどその時だった。「あ!」と氷室が言ったと思うと、ガシャン、と言う音を立てて少年二人と共にDホイールと共に横転したのは。

遊星は、軽く目を見開いて驚いた。それは他も同じであった。しかし一番青ざめていたのは、やはり龍亞と天平であった。

「あ・・・」

冷えた空気の中、声を最初に漏らしたのは龍亞であった。正直「怒られる」と考えたのだが、遊星は黙って二人を起き上がらせた。心配した龍可も含め、龍亞達は少し驚いた。

「怪我は無いか?」

「え・・あ、うん」

「そうか」

二人の服の土を払ってやり、怪我が無いのを知った遊星は黙ったまま倒れたDホイールを立たせた。

「ご・・・ごめんなさい!」

二人で同時にバイクの点検をしている遊星に頭をさげた。幸い、見た範囲ではこれといった破損部分はなさそうだった。

「気にするな、誰にでもこういうことはある。」

でも次は気をつけるんだ、と言うと、二人は少し安心した様子だった。

 

 

「ったく、あの野郎」

遠くの廃ビルの屋上から少し遠くにある空き地に見える遊星達の姿を見ていた牛尾は、双眼鏡を破壊しかねない力をそれに加えながら、彼らの様子を見ていた。

「あの、そろそろ戻らないとまた怒られますよ?」

牛尾の部下が、しっかりと、でも内心怖がっている声を発して彼の後ろから言う。

「うるせぇ!」牛尾が怒鳴ると、蛇ににらまれた蛙の如く震え上がる彼の部下は、「し、失礼しましたっ!」と声を裏返しながら、敬礼し、慌ててビルの階段を下りていった。

「待ってろよ、サテライト野郎・・・お前は絶対にオレが捕まえてやるからな!」

「果たして貴様にそれが出来るのか?」

慌てて階段を駆け下りていく部下の足音に混じって、低い女性の声が階段の扉の前で響いた。

「ああ?」

牛尾は不機嫌な顔をした。青空の下に逆行で捕らえた女性の姿。自分と同じセキュリティの人物だが、服装からして彼女の方が牛尾より上のようだ。

3〜40代くらいの威厳のある顔には、日に焼けて少し黒くなっている。短い髪を帽子の中に納め、目を細めながら牛尾を見る。

「全く、あんな子供に手こずる様じゃあ、あんたの出世は当分先ね」

牛尾と色が違うだけの濃い青の上着を腕に通さず、肩からかけている。腕の部分が風に揺られて流れた。

青い警察帽子の黒い先端を持ち上げると

女は白のブラウスに付いている赤いネクタイを解くと、まるで鞭でも持つかのように両手でピッと引っ張った。

「あの小僧は私が仕留める、あんたは本部へ戻って上官の面倒でも見ていたら?」

「何を言い出すかと思えば」

あんたはあのガキのことを何もしらないじゃないですかい?と牛尾は嫌味を含んだ言葉で返す。

「サテライトの人間なんて誰もが同じだ」

彼女はそういうと、牛尾の隣にならんだ。廃ビルに囲まれた一画に見える空き地にいるマーカーが付いた一人の青年。

「あれはオレの獲物だ、いくら上司のあんたでも、これだけは譲れないぞ」

フンッと鼻を鳴らしてその場を後にする牛尾。

「サテライト・・・か」

口の端を持ち上げ笑うと、彼女はおもむろに後ろを向いた。太陽の光に反射している海。その手前に見える廃墟と化した町。

 

 

ドラゴンの咆哮が聞こえた。

声に気付いたのか、気付かなかったのか、黙ったまま遊星はDホイールを触る手を止め、空を見た。

廃墟のビルの隙間から見える陽の光と、少し陽が傾いた薄紅の空。割れた窓ガラスが空を写している、唯それだけしか彼の目には映らなかった。他の仲間もそれぞれの会話に夢中になっている。

しかし遠くから見ていた龍可だけは違った。

翼と尾を折りたたんで、一人の青年を守るように傍らに寄り添う一匹の白と青の竜の姿。

「遊せ・・・」

声を発すると同時にドラゴンは長い首を振り向かせこちらに向けた。金色の目が彼女と合った瞬間、星屑のような光を残してその姿を消した。

3.追撃《Episode-2

2.夢《Episode-1