一羽の烏の鎮魂曲
以前何かの本で読んだことがある。
もし自分がピンチに陥ったときに出てくる三択の答え。
1.パッとアイディアがひらめく
2.仲間が来てくれる
3.何も出来ない、現実は非情だ。
という物だ。
んで、今のオレはまさに上記の通りだ。
昼過ぎになると、何時もと同じように、オレは子供達の世話をする為にアジトから離れ、夕暮れのサテライトをDホイールをかっ飛ばして帰ってきた矢先だった。
その後は飯作って、今後の予定を立てて・・・と何時も通り時間が過ぎていく・・・
はずだった・・・。
「う・・・ぁあっ!!」
扉を開けようとしたオレは、中から聞こえてくる声にドアのノブを捻る手を止めた。
錆付いて所々に凹みや小さな穴が開いている扉は、耳を当てれば中の音を聞く事は出来るし、見ることも可能。
そんな中から聞こえてきたのは・・・遊星の・・・声??
確かにあいつの声には間違いないけど・・・。
「おい、どうした遊星?スッゲー固いじゃねぇか?」
・・・ちょっと待て?鬼柳の声もするんだが・・・。
「や・・・やめろ・・・鬼柳ぅ・・・」
「何言ってんだよ、気持ち良いだろう?」
ピシ、とオレの頭の中で何かが音を立てた。
・・・をい、これってまさか・・・
考えたくも無い事が頭の中をよぎる。だってそうじゃないか、暗くなったといってもまだ夕方だぞ!
しかもこういうときに限って、ジャックの野郎は何処かへ行っちまってるしよおおっ!
い・・・いや、いくらなんでも、それは考え過ぎかもしれねぇっ!
そうだ!とりあえず中を見て真実を知れば良いんだ!
そう思ったオレは、使われる事がない鍵穴をそっと覗いた。
目に映ったのは、ボロボロのコンクリートの壁、そしてオレ達、チーム・サティスファクションのリーダー、鬼柳京介の姿。
「ん?」
何だか嬉しそうな表情をしている鬼柳の表情。しかし、あいつの胸辺りから下は見ることが出来ないが、声からして鬼柳の足元辺りにいるのは恐らく遊星だろう。鬼柳の方はなにやら上半身を動かしてハァハァと息を荒くしている。そこから微かに聞こえる遊星の声も・・・
「っはあっ!スゲー良い顔しやがるじゃねぇか遊星!」
ちょちょ・・・ちょおおおっつ待てっ!!こいつら昼間から何をしてやがんだっ!
と、鬼柳が鍵穴の方を見ているのに気付く。どうやらオレが外にいる事に気付いたようだ。
しかし鬼柳はそれを知ると・・・。
「フッ」
と鼻で笑うとまた殺気と同じ事を始める。おい待てよリーダー!お前何をしてるんだっ!!
オレは小さくうめきながら頭を抱えた。
『どうしたんだよ遊星、もっとほしいってか?!』
『き・・・りゅ・・・早くオレの中に・・・』
『良いぜ遊星!可愛い声であえいでくれよ!!』
・・・・・・・・・・・・・・・・う、うああああっ!!
「?どうしたクロウ・・・??」
ドタドタと音を立てながらオレは転げるように階段を下りていった。勿論、オレの耳には買い物帰りのジャックの声なんて聞こえていない。
「それでクロウはどうしたんだ?」
ジャックが買い物袋を机に置きながら二人に話しかける。
「いや、叫び声しか聞こえなかったんだが・・・」
右肩を摩りながら遊星が答えた。その側にある、窓があったであろう穴の枠に鬼柳が欠伸をしながら青空を見ていた。
「ったく、遊星の奴、スゲー肩こってやがるんだぜ!お陰でこっちが疲れちまった」
「仕方が無い、遊星にはいつもディスクを修理してもらっているからな、疲れて当然だ」
椅子に座って手作りのパソコンを起動させると、灰色のコードをデュエルディスクに接続する遊星を見てジャックは言う。その動作をしながら遊星はジャックを見ると軽く笑うと再びディスクの調整を行った。
「ありがとう鬼柳、お陰で身体が軽くなった」
「何、気にすんな。また疲れたらマッサージくらいしてやるよ」
右腕を大きく回す遊星に、そう言いながら窓から降りると座り込み、腕を組んで鬼柳は眼を閉じた。
「・・・しっかし、クロウの奴・・・からかい甲斐があるぜ」
ニッと笑うと鬼柳は静かに眼を閉じた。
「ねぇ、クロウ!どうしたの?」
「顔真っ赤にして帰ってきて」
子供達がいる廃墟のビルの入り口付近で、Dホイールに顔を突っ伏しながらため息と涙を零しているクロウの周りを子供たちが取り囲んでいた。
「遊星ぇ・・・」
「ん?」
誰かに呼ばれたような・・・そう思いながらディスクのコードを片手に窓の外を見る遊星。仲間達が安心して眠っている窓の外で、一話のカラスが寂しげな声を発しながら、青空を飛んでいた。